堆肥に残留した除草剤成分(クロピラリド)による生育障害について

更新日:2021年10月08日

 近年、外国での飼料生産等に使用された除草剤(成分名:クロピラリド)が残留した輸入飼料を給与した家畜のふん尿に除草剤成分が残留し、これらを原料とした堆肥の利用によりトマト・ミニトマトやスイートピー等の一部の品目に生育障害が発生したと疑われる事例が全国各地で確認されています。
 宮崎県においても、ミニトマトやスイートピーにおいて、生育障害の発生が確認されており、堆肥を施用する際には必ず確認が必要です。

1.クロピラリドの特徴

 クロピラリドは、日本での農薬登録はありませんが、アメリカ、カナダ、オーストラリア等では、主にアザミ、クローバーなどの広葉雑草を枯らす選択性の除草剤として、麦類、牧草、とうもろこし等に使用されています。
 ホルモン型の除草剤であるクロピラリドは、ナス科、マメ科等の作物に対しては、非常に低い濃度(数ppb:10億分の1の単位)で生育異常を引き起こすことが知られています。
 また、堆肥化しても分解が非常に遅く、残留しやすい一方、水溶性が高く、かん水や降雨によって溶脱しやすいという特徴があります。
 なお、クロピラリドは、家畜の健康や畜産物(肉・乳等)の品質・安全性、人の健康に影響する危険性はないと考えられます。

2.クロピラリドによる生育障害の発生経路

クロピラリドは、次の経路で国内に入り、農作物に生育障害を発生させます。

  1. 海外での飼料生産ほ場において除草剤として使用され、飼料中に残留
  2. この飼料が国内に輸入され、家畜に給与されるが、水に溶けやすいため、ほとんどがふん尿に混ざり排せつされる
  3. このふん尿を原料として堆肥が生産(クロピラリドが含まれる堆肥)されるが、分解スピードが遅いため、堆肥中に残留した状態で流通
  4. この堆肥がスイートピーやトマト等、クロピラリドに対する耐性の低い作物のほ場に施用され、生育障害が発生
クロピラリドによる生育障害のフロー図

図1 クロピラリドの流れ

 農林水産省の調査によると、国内で流通する輸入飼料を給与された家畜(牛、馬、豚及び鶏)の排せつ物又はこれを原料とした堆肥には、クロピラリドが残留している可能性があり、濃厚飼料(特に小麦ふすま、大麦ぬか)を多給する肥育牛由来堆肥で濃度が高い傾向にある。

3.植物種によるクロピラリドに対する耐性の違い

 クロピラリドによる植物の生育異常の現れ方は品目や品種によって異なり、トマト等のナス科、スィートピー等のマメ科、キク等のキク科等のクロピラリドによる生育障害が発生しやすい作物では、確実に被害防止に向けた対策を行う必要があります。

「クロピラリドによる生育障害発生のしやすさは作物ごとに異なります」の画像

表1 クロピラリドに対する耐性

4.クロピラリドによる生育障害の症状

 クロピラリドによる生育障害は、次のような生育異常を示し、症状が激しい場合は、株が萎縮し、回復が見込めない場合もあります。

トマトの例

トマトの茎と葉の写真
  • 葉の形状に異常が生じます
  • また、ミニトマトでは果実が細長くなるといった症状が見られます

参考

5.被害の防止に向けた対策

対策の基本的な考え方

 クロピラリドに対する耐性は、作物や品種によって大きく異なります。本県でも生育障害が確認されているスイートピーやミニトマト等は特に弱いため、十分に注意をする必要があります。

 また、クロピラリドによる生育障害は、施設園芸でのみ確認されており、露地栽培における生育障害はこれまで確認されていません。これは、クロピラリドが水に溶けやすいため降雨等によって流亡していると考えられます。

 このため、クロピラリドによる生育障害については、トマト、ミニトマト、スイートピー等のクロピラリドに対する耐性の低い品目をハウス等の施設において生産する場合に特に注意が必要となります。

堆肥のクロピラリド残留を確認する方法について

 使用する堆肥等のクロピラリド残留状況を調べる方法として、生物検定があります。
 生物検定は、使用する堆肥と土を混和した培土を用いて、サヤエンドウ等のクロピラリドに敏感な植物を植え付け、生育障害の発生程度からクロピラリドの残留状況を確認する方法です。

 生物検定の詳しい方法については、「飼料及び堆肥に残留する除草剤の簡易判定法と被害軽減対策マニュアル」(外部サイトへリンク)又は、生物検定マニュアル(耕種農家用)を御確認ください。

生育障害発生を防止するための取組について

 クロピラリドによる生育障害の発生を防止するためには、飼料の輸入業者、畜産農家、堆肥の製造者・販売者、培土の製造者・販売者、園芸農家のそれぞれが、クロピラリドに関する正確な情報を確認・伝達するとともに、園芸農家においては、適切な堆肥施用を行う等の取組が必要です。

飼料流通に関係する方の取組

  • 飼料を輸入する際は、クロピラリドを使用した飼料かどうか履歴を確認します。
  • 輸入飼料を販売する場合は、クロピラリドの残留可能性について販売先に伝達します。

畜産農家の取組

  • 飼料を購入する場合は、その飼料のクロピラリド残留可能性を販売業者に確認します。
  • また、新たに輸入飼料を給与し始めた場合や輸入飼料の購入先を切り替えた等の場合は、提供先に情報を共有します。
  • 家畜ふん尿を堆肥等の原料として提供する場合は、提供先の作付け品目を確認し、クロピラリドへの耐性を確認した上で、残留の可能性があること(特に肥育牛の排せつ物については、「高濃度でクロピラリドが含まれている可能性があること」)を伝達します。
  • 生物検定を実施した場合は、その結果を提供先に伝達しましょう。
注意
  • 畜産農家において堆肥を生産する場合には、以下の「堆肥を生産する方の取組」も行います。
  • また、マメ科牧草に堆肥を施用する場合には、留意が必要です。

堆肥を生産・販売する方の取組

  • 牛又は馬由来堆肥の提供先と、「牛及び馬に由来する堆肥は、クロピラリドが含まれている可能性があるため、使用に当たっては作物の種類や施要領等に留意する必要がある」ことについて情報を共有します。
  • 特に、小麦ふすまや大麦ぬかを多給する肥育牛等の堆肥には、高濃度でクロピラリドが含まれている可能性があるため、場合によっては施用を控える必要があることを確実に共有します。
  • ポットにおける育苗又は施設栽培に施用する場合であり、かつ、トマト等のナス科、スィートピー等のマメ科、キク等のキク科の作物等感受性の高い作物では、堆肥の施用を予定する場合は確実に情報を共有します。
  • 生物検定を実施した場合は、その結果を提供先に伝達しましょう。
  • また、直接農家に販売しない場合は、販売先(小売業者)等に上記内容を伝達し、販売先から農家にも伝達するよう伝えます。
参考

培土製造・販売する方の取組

  • 不特定多数に販売される培土に家畜ふん尿由来の堆肥(特に肥育牛由来の堆肥)を使用している場合は、必要に応じて原料の配合を変更する等、クロピラリド濃度の低減に努めます。
  • 牛又は馬由来堆肥を含む培土の提供先へ、「牛及び馬に由来する堆肥は、クロピラリドが含まれている可能性があるため、使用に当たっては作物の種類や施要領等に留意する必要がある」ことについて確実に情報を伝達します。
  • 培土の提供先に堆肥の生産業者からクロピラリドに関する情報を聞き取り、販売先(農家)にその情報を伝達します。

園芸農家(堆肥・培土を使用する方)の取組

トマト、ミニトマト、スイートピー等、クロピラリドに弱い品目に使用する堆肥や培土を購入する場合には、クロピラリドの残留の恐れがあるか、生物検定が実施されたものか等を確認し、可能な限り安全な堆肥を選択します。

堆肥を施用する場合には、以下に注意します。

  1. 堆肥中のクロピラリドの残留を確認するため、生物検定を実施して堆肥の安全性を確認する。
  2. 堆肥の施用量は施肥基準や地域の栽培暦等を参考にし、過剰な投入を避ける。
  3. 堆肥は完熟したもの(十分に発酵が進んだもの)を使用する。
  4. 堆肥は作付けをする1ヶ月前までに施用する。
  5. 堆肥はほ場全体にムラなく散布する。
  6. 作物の根域を制限する場合等は、根域の土量に合わせて堆肥の施用量を基準量から減らす。
  7. 作付け前には、そのほ場の土壌に指標作物(サヤエンドウ)や実際に作付けを行う作物を植えて障害が発生しないかを確認する。

 特に、トマト・ミニトマト等のナス科、スイートピー等のマメ科、キク等のキク科の作物等、クピラリドによる生育障害が発生しやすい作物をポットや施設で栽培する場合は、次による方法を選択するなど、生育障害を未然に防ぐ取組を実施します。

  • ポットによる苗生産では、深刻な生育障害が発生する可能性が高いことから、家畜由来の堆肥の施用を控えます。なお、堆肥を施用する場合は、生物検定等により生育障害の発生する可能性がないことを確認した上で施用します。
  • 施設において栽培する場合は、家畜由来堆肥以外の他の堆肥や原材料に変更するなど、堆肥の投入量を低減するとともに、堆肥を施用する場合は、生物検定等により生育障害の発生する可能性がないことを確認した上で施用します。
  • 家畜由来の堆肥を施用する場合は、耕起により土壌と良く混和します。
  • 土壌消毒を行う場合は、小麦ふすまの施用は控え、太陽熱消毒等代替手法を用います。

 注意:培土を使用する場合も上記のことに注意して使用します。

また、堆肥施用に当たっては、土壌病害を防止する観点から、堆肥施用後には十分なかん水を行い、前作の作物残渣の分解を促進する取組や、堆肥施用・畝立て後に湛水状態にしてから陽熱消毒を行うといった技術に取り組みましょう。
詳しい技術や対策については、地域の農業改良普及センターにお問い合わせください。

参考

6.被害が発生した場合の対応

 クロピラリドが原因と疑われる生育障害が確認された場合には、地域の農業改良普及センターにお知らせください。

7.クロピラリドに関する情報

 クロピラリドに関する詳しい情報は、農林水産省ホームページ(クロピラリド関連情報)(外部サイトへリンク)を御覧ください。

この記事に関するお問い合わせ先

農業普及技術課

〒880-8501

宮崎県宮崎市橘通東2-10-1

電話番号:0985-26-7131

ファックス番号:0985-26-7325

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