宮崎県の海面養殖で発生した新たなレンサ球菌症とは

更新日:2023年04月17日

2021年9月以降,市販ワクチン接種済の養殖カンパチにおいて新たなレンサ球菌症が確認されました。そこで、本稿では宮崎県の海面養殖で発生するレンサ球菌症について解説します。

電子ファイルは以下からダウンロードできます。

水産宮崎No.764(PDFファイル:561.3KB)

なお、この内容は水産宮崎No.764に掲載されたものです。

 

宮崎県の海面養殖で発生した新たなレンサ球菌症とは

-増養殖部-

1はじめに

本県の海面養殖は県北部及び県南部の沿岸域で小割生簀により営まれており,ブリ,カンパチ,マダイ,シマアジなど様々な魚種が生産されています。海面養殖では様々な感染症が発生しますが,その中で重要な感染症の一つとしてレンサ球菌症が挙げられます。国内の海産魚で発生する「レンサ球菌症」と呼ばれる細菌感染症は,α溶血性レンサ球菌症(以下「αレンサ」という),β溶血性レンサ球菌症(以下「βレンサ」という),ランスフィールドC群レンサ球菌症(以下「C群レンサ」という)及びストレプトコッカス・パラウベリス感染症(以下「パラウベリス」という)に大別されますが,その中で近年,本県海面養殖で大きな被害を与えているのがαレンサです。αレンサは,1974年に初めて確認され,1990年代に原因細菌の多剤耐性化が進んだこともあり,国内養殖の生産に深刻な被害を与えてきましたが,1997年に承認された経口ワクチンおよび2001年に承認された注射ワクチンの普及により被害は減少し,ワクチンが市販化されてから2012年頃までの間は,年間で1件魚病検査するかしないかの珍しい病気となっていました。しかし,他県で2012年に市販ワクチン接種後のブリでαレンサの発生が確認されたのを皮切りに,本県も含め国内でαレンサの再流行が発生し大きな問題となりました。この感染症について研究が進められた結果,従来のワクチンの血清型を1型 とした場合,2012年以降に発生した血清型を2型とするよう定義づけられました。幸いなことに2型に対するワクチンは発生から4年後の2016年に市販が開始されました。ワクチン接種が進められている現在でも2型の発生は継続していますが,2型ワクチンの市販化前と比べると被害は減少傾向にあります。このように,これまで1種類の血清型のワクチンでコントロールできていたαレンサは,新たなタイプの流行により複数の血清型のワクチンを接種しないと感染症の予防が難しくなりました。

さらに,2021年9月以降,1型および2型に対する混合ワクチンを接種済の養殖カンパチにおいてαレンサと類似の感染症が確認されるようになりました。その後の研究で,分離された細菌の血清型は1型および2型と異なることがわかり,私たちはこれまでの感染症と明確に区別するため「3型」と呼称することを提案しています。この新しいαレンサ「3型」はブリ,シマアジ,クロマグロ,ヒラメ,マアジ,イサキ及びウマヅラハギといった幅広い魚種で確認されており,特に本県のカンパチ及びシマアジ養殖では大きな魚病被害が発生しています。そこで今回は新たに発生したαレンサ「3型」について,これまで分かったことをお話しします。

2αレンサ「3型」の症状とは

まずはαレンサ「3型」の症状についてカンパチを例に御紹介します。3型は高水温期(夏季)を中心に発生します。図1Aに示す眼球白濁や図1Bに示す尾柄部膿瘍形成,また鰓蓋内側の発赤を示すこともありますが,特に当歳魚では外観上,無症状の場合もあります。異常行動としてはキリキリ舞って泳ぐ狂奔遊泳を示す場合もあります。このような症状は「レンサ球菌症」において共通して見られる症状です。αレンサ「3型」が確認された2021年8月において,ワクチン接種済みの病魚で尾柄部膿瘍形成を示すものが多かったこともあり,高水温期に発生が多く同様の症状を示し市販ワクチンが効かないC群レンサと誤認されるケースがありました。このように外観上の観察や魚の行動だけではどの「レンサ球菌症」が発生しているか区別することはできません。また,C群レンサとαレンサ「3型」では良く効く治療薬の種類が異なります。このため,レンサ球菌症の発生が疑われた場合は水産試験場又は最寄りの農林振興局に御相談をお願いします。

図1

図13型を発症したカンパチ病魚の症状

A:眼球白濁,B:尾柄部膿瘍形成

3侮れない病原性

3型を確認した私たちが最初に調べたのは,海面養殖魚に対する3型の病原性です。感染症の対策を考える上で病原性の確認は非常に重要で,例えば投薬前の餌止めやビタミン剤の投与,適切なタイミングでの抗菌剤投与といった従来技術の組み合わせで対策が打てるのか,新しいワクチンを開発しないと抜本的な対策が見込めないのか,見極めることができます。今回はブリ,カンパチ,シマアジをモデルに病原性を調べました。その結果,ブリとカンパチ及びシマアジでは病原性の程度が異なることが分かりました。

まずはカンパチの結果から述べます。カンパチでは攻撃2日後には死亡が始まり,高い致死率を示しました。また同様の結果がシマアジでも得られています。これは1990年代に猛威を振るったαレンサ「1型」に匹敵する病原性です。続いてブリの結果をお示しします。ブリではカンパチより病原性が低いものの高い濃度の菌量で攻撃した試験区では70%以上の死亡率が確認された(図2)ことから,一定程度の病原性があると判断しました。また,ブリにおいては絶食条件下では死亡率が低くなるといった現象が確認されました。昔から言われることではありますが,治療効果を高めるため「投薬前の餌止め」は有効とされ,今回の試験結果でも「餌止めの有効性」を後押しする結果が得られていますので,少なくとも投薬2日前には餌止めをしてから投薬するよう心がけてください。

 

  図3 

図23型菌株で攻撃したブリの死亡状況(攻撃後5日間,飽食量を給餌)

攻撃菌量:(CFU/尾) :シロマル10^3, シロサンカク10^4, シロシカク10^5, 

バツ10^6, シロヒシ陽性対照区,クロマル対照区

4ワクチンで予防できるのか

今回発生したαレンサ「3型」では,市販ワクチン接種済みの魚で発生しておりますので,新型コロナ感染症の報道で社会認識された「ブレークスルー感染」(ワクチンを接種しても感染する事例)があったと理解しています。ただ,市販ワクチンの効果が全く期待できないのか,あるいは多少なりとも効果が期待できるのか疑問が残ります。このためワクチン試験を実施しました。この試験では1型のみ又は1型・2型を含む市販ワクチン3種類と3型菌株で試作したワクチン(以下「試作ワクチン」)の計4種類で試験を行いました。結果を表1に示します。全ての市販ワクチン接種区では高い死亡率を示したことから,残念ながら国内で流通する市販ワクチンではαレンサ「3型」の予防は期待できないことがわかりました。一方,3型菌株から作製した試作ワクチン区は高い予防効果が認められましたので,ワクチンによる予防は可能と思われます。このため,3型ワクチンの早期実用化が期待されます。表1

4 最後に

このように新たに発生したαレンサ「3型」は魚種によっては病原性が高く被害拡大の心配がある一方で,ワクチンによる予防が期待できそうです。既に一部のワクチンメーカーはワクチン開発に動き出したという話も伝え聞いております。今後,水産試験場は早期に効果的なワクチンが市販化されるよう国やメーカーに働きかけていきたいと思います。また,レンサ球菌症は外観による判別が難しいことや,適切な治療を行うために薬剤感受性の情報が必要であり,被害軽減の観点から,レンサ球菌症を含め感染症の発生が疑われた場合には,水産試験場(0985-65-6212)又は地元振興局(東臼杵農林振興局:0982-32-6135,南那珂農林振興局:0987-23-4312)まで御連絡ください。このほか今年度から海面養殖業者に向けて県のメーリングシステムを活用し,プッシュ型の魚病・赤潮情報発信を行っています。養殖経営の安定化の一助になれば幸いです。

 

 

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