沿岸漁業新規就業者の定着につながる要因分析について
本県漁業就業者は,平成30年漁業センサス概数値によると2,202人で,今後さらなる減少,特に沿岸漁業就業者の著しい減少が予想され,将来の漁村地域の経済活動の縮小が懸念されており,漁業就業者の確保及び収益向上の対策が急務となっています。
しかし、着業後に離職するケースも多いことから確実な定着につなげるための試験研究を令和元年~3年に行いました。
今回はその分析内容の一部をご紹介します。
沿岸漁業新規就業者の定着につながる要因分析について
経営流通部
はじめに
本県漁業就業者は,平成30年漁業センサス概数値によると2,202人で,今後さらなる減少,特に沿岸漁業就業者の著しい減少が予想され,将来の漁村地域の経済活動の縮小が懸念されており,漁業就業者の確保及び収益向上の対策が急務となっています。
しかし、着業後に離職するケースも多いことから確実な定着につなげるための試験研究を令和元年~3年に行いました。
今回はその分析内容の一部をご紹介します。
1.沿岸漁業への新規就業に求められる経済条件
国立研究開発法人水産研究・教育機構水産技術研究所との共同研究で分析を行いました。
この分析では、漁業への新規就業において投資に見合う利益を上げるための経済条件を明らかにするためにNPV(Net Present Value)法を用いています。
NPV法は経営分野で最もスタンダードな手法であり、投資によって購入した設備や機器類等の耐用年数内に得られるであろう収入が支出より大きければ投資は有利であると判断する方法で、投資財は全額無利子の宮崎県沿岸漁業改善資金で返済することを想定しています。
県内複数の地域、漁業種類で分析を行い、漁業者の経営収支データ及び販売データ、漁業関連事業のデータ、漁業者への聞き取り調査によって、1日あたりの水揚金額や労働時間、最低限必要となる投資額等を算出しました(表1)。
例えば、刺網に新規就業する場合、必要な投資財は中古漁船4,158,000円、漁具等2,331,670円、合計6,489,670円となり、返済に必要な目安として年間水揚げ金額は3,364,892円(1日あたり水揚げ金額が約35,000円の場合、96日操業)となります。
表1 NPV法による試算結果
※1 新規就業者本人分の賃金見合い分を含む
※2 A漁協の刺網と磯建網の複合の場合、磯建網の洗浄作業時に約3名が必要
※3 実際に必要な投資額は5,864,442円(中古漁船3,862,222円、漁具・漁網2,002,220円)。半額は補助を利用したと仮定
※4 Cの延縄と磯建網の複合の場合、磯建網の洗浄作業時に約10名が必要
※5 実際に必要な投資額は4,831,479円(中古漁船4,082,400円+漁具499,079円+軽トラック250,000円)。
表中の可能投資額は採算がとれるまで減額した額(必要な投資額の 44.1%)であり、半額の補助が利用できたとしても成り立たない
※6 操業回数(概ね2日/回)
2.新規就業者の定着に必要な年数及び定着までの操業の目安の分析
この分析では、かつての新規就業者で現在も操業を行っている方の販売データから、1日あたり水揚げ金額が横ばいになった年数を漁ろう技術が安定した期間、すなわち定着にかかった期間とみなして分析を行いました。
新規就業者の定着には、小型底曳網漁業(小底2種)や延縄漁業で3~5年、曳縄漁業で5~7年を要することがわかりました。
表2 漁ろう技術が安定する期間
おわりに
今回ご紹介した分析は、新規就業希望者の漁業を営む地域及び漁業種類の選択や初期費用の算出、就業時に目標とする操業日数の決定、長期的な操業及び返済計画の決定、就業後に目標と実績を比較し各自改善点を見つける際などに活用できると考えており、新規就業者の定着の一助となることを期待しています。
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更新日:2023年05月26日