宮崎県における赤潮発生状況について

更新日:2023年09月05日

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なお、この内容は水産宮崎No.769に掲載されたものです。

-増養殖部-

1.はじめに

本県における海面養殖業は内湾の多い県北・県南部において盛んに行われ、本県の海面漁業生産額の4分の1以上を占める基幹漁業です。

しかし、海面養殖は常に安定生産できるとは限りません。それは主に2つの要因が関わっているためです。

1つ目は「魚病」です。魚病は文字のとおり「魚の病気」を指します。年間を通して発生し、本県の養殖業に多大な被害をもたらしています。被害を最小限に抑えるためには迅速な診断が必要ですが、診断には生簀内の病魚を採取する必要があるため、労力と時間がかかります。また、診断結果は採取した病魚の鮮度に大きく左右されることから正確な診断をするためにはスピード感をもった対応も必要です。近年、環境水中の遺伝子を分析することで、病原体の種類等がわかる「環境DNA」技術の発展が著しく、この技術を活用することにより、魚病の早期発見が期待されます。

2つ目は「赤潮」です。赤潮は、植物プランクトンあるいは動物プランクトンが大増殖することによって海水が着色する現象を指します。赤褐色、黄褐色、緑色、深赤色など増加したプランクトンの種類によって色は異なります。本県で発生する赤潮は季節性があり、気象や海象の影響によって発生するため、定期的なモニタリングにより海水中のプランクトンの存在を確認し、関係漁業者に情報を共有することによって、赤潮による被害の予防や軽減が期待できます。

そこで本稿では、本県で発生している赤潮の発生状況とその発生パターンについてご紹介いたします。

2.赤潮の発生状況

平成16年度から令和4年度までに本県で発生が確認された赤潮は37件で、そのうち、Heterosigma akashiwo(以下、「ヘテロシグマ」という)、Karenia mikimotoi(以下、「カレニア」という)よる赤潮は22件でした(図1)。この2種類については、ほぼ毎年出現が確認されていることや、本県において過去に漁業被害が確認されていることから「有害赤潮」として監視対象にしています。

しかし、有害赤潮でなくとも、発生状況によっては、魚介類のエラの上皮細胞を損傷させ呼吸を妨げるもの(生理学的ダメージ)や、大量に増殖したプランクトンの死骸が分解される過程で多くの酸素が消費され、海水中が貧酸素になり、魚介類のへい死を招くもの(環境化学的ダメージ)がある等、注意が必要です。

次に、本県が有害赤潮として注意しているヘテロシグマ及びカレニアの2種類の発生パターンについてご紹介します。

図1 本県における赤潮発生状況

図1 本県における赤潮発生状況

3.赤潮の発生パターン

(1) ヘテロシグマ赤潮

ヘテロシグマには底泥中と海水中で生息する2つのライフステージがあります。底泥中では増殖や遊泳することはなく、増殖に適さない環境下を生き抜く「シスト」と呼ばれる形態で生息しています。シストから増殖や遊泳できる形(=遊泳細胞)に変化するときは、「発芽」といいますが、水温が16℃以上になるとシストから発芽し、遊泳細胞として海水中を遊泳するようになります(図2の1)。

シストから発芽した遊泳細胞は、細胞分裂により増殖し、光が多くある条件下で生残率が著しく高いことが報告されています。また、遊泳細胞は水温10℃から30℃で増殖可能とされており、25℃が増殖に適した水温と言われています(図2の2)。

次に、遊泳細胞は更なる増殖のために高濃度の栄養塩(無機態窒素、無機態リン等)を細胞内に取り込みます。海洋への栄養塩の供給には、降雨に伴う陸域からの流入が最も大きい影響を与えています。また、ヘテロシグマは日周鉛直移動を行う種であり、昼間は表層まで能動的に移動して光を受け、栄養塩を取り込むことで光合成を行い、エネルギーを溜め増殖します(図2の3)。

以上のことから、本県においては、7月から9月頃の日射量が多く、水温が高い時期に、まとまった降雨が観測された場合に、ヘテロシグマの発生に注意する必要があります。

 

【引用:今井一郎,山口峰生,松岡數充.有害有毒プランクトンの科学.2016】

図2 ヘテロシグマ赤潮の発生イメージ

図2 ヘテロシグマ赤潮イメージ

(2) カレニア赤潮

カレニアの発生段階は低密度で推移する期間の「出現期」、顕著に増殖する期間の「増殖期」、増殖速度が遅くなる期間の「定常期」、細胞密度が急速に減少する期間の「衰退期」からなります。なお、カレニアはヘテロシグマと異なり、シスト(海底の泥の中で休眠状態となる)を作らずに遊泳細胞のまま他の植物プランクトンと同様に周年存在しています(図3 「出現期」)。

増殖期のカレニアは、海水交換の少ない静穏域の水深10から20mで増殖すると言われており、水温25℃塩分25psuの組み合わせで最も増殖速度が大きいと報告されています。増殖を促進する要因としては、梅雨時期の降雨による陸域からの流入が最も大きく、ヘテロシグマと同様に日周鉛直移動を行うことで効率良く栄養塩を取り込むことで増殖しています(図3 「増殖期」)。

定常期になると、カレニア赤潮を海面から確認することができるようになりますが、この時期には既に濃密な赤潮を形成しており、赤潮発生期間中の最高密度に達することが多いとされます。また、初期発生海域にとどまらず分布を拡大することが特徴です(図3 「定常期」)。

衰退期は、台風や暖水の流入などの急潮、低気圧の通過といったイベントにより細胞が発散し消失します。また、カレニア赤潮終息時には、珪藻類の急激な増加が観測されていることから、珪藻類との間に何らかの競合関係が生じ、カレニアの増殖が制限されることも考えられています。

以上のことから、本県においては、5月から7月頃の水温帯(25℃近辺)で、かつ日射量が少ない時はカレニアの発生に注意する必要があります。

 

【引用:今井一郎,山口峰生,松岡數充.有害有毒プランクトンの科学.2016】

図3 カレニア赤潮の発生パターン

図3 カレニア赤潮の発生パターン

4. 宮崎県における赤潮監視体制

有害赤潮の発生時は養殖魚への給餌を休止することで被害を軽減できることが知られていますが、残念ながら、これらの発生を防ぐための有効策は現時点ではありません。そのため、赤潮発生予測と発生初期の対応が非常に重要です。

そこで、水産試験場では、有害赤潮発生初期の対応強化策として「メーリングリスト」と「リモート同定・診断」を令和4年度から実施しています。メーリングリストは、関係漁協・関係養殖業者・行政機関・試験場をメンバーとして構築しており、突発的赤潮が発生した際の連絡網を整備しました。本県において突発的赤潮が発生した時や、近隣県において赤潮が発生した際は、当メーリングリストを通じて情報を速やかに発信共有し、被害の未然防止を図っております。また、リモート同定・診断は、顕微鏡等の検査機器を出先機関に整備し、出先機関職員の同定技術の向上及び魚病診断の支援を図っております。

今後も定期赤潮調査をはじめ、メーリングリストやリモート同定・診断技術を運用し、赤潮の発生予測及び初期対応の迅速化に努めて参ります。

最後に、日頃より漁場環境調査にご協力いただいている漁業協同組合及び養殖関係者の皆様にはこの場を借りて感謝申し上げます。引き続き調査への御協力をお願いいたします。また、海面の着色、異常を確認された場合は水産試験場または地元農林振興局まで御連絡ください。

この記事に関するお問い合わせ先

水産試験場
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