養殖ブリを用いた血合筋褐変抑制技術開発
養殖ブリスライスの血合筋褐変抑制技術開発に関する研究を行いましたのでご紹介します。
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養殖ブリを用いた血合筋褐変抑制技術開発 (PDFファイル: 629.5KB)
なお、この内容は水産宮崎No.770に掲載されたものです。
養殖ブリを用いた血合筋褐変抑制技術開発について
ー経営流通部ー
1 はじめに
ブリは本県で最も多く養殖されている魚種であり、天然魚の生息域が日本近海に限られていることから海外での需要も高く、輸出量の拡大も期待できる魚種である一方、養殖魚を海外輸出する場合には、出荷調整や物流費削減のために冷凍で輸出できることが望ましいですが、解凍後の血合筋が急速に褐変する等、冷凍解凍による商品価値の低下が問題となっています。血合筋褐変防止策として一酸化炭素処理が挙げられますが、日本国内を含め、多くの国で食品への使用が禁止されているため、このような国へのブリ類の輸出拡大には、一酸化炭素処理以外の方法で血合筋褐変を抑制する必要があります。そこで、国の研究機関と共同で、養殖ブリスライスの血合筋褐変抑制技術開発に関する研究を行いました。
2 血合筋の褐変と酸素充填
血合筋の色はミオグロビンという色素タンパク質によって左右されています。ミオグロビンは鉄原子の酸化・還元や酸素の結合によって、デオキシミオグロビン、オキシミオグロビン、メトミオグロビンの3つの状態を示します。オキシミオグロビンは鮮やかな赤色、デオキシミオグロビンは暗い赤紫色、メトミオグロビンは褐色を示します。
デオキシミオグロビンは空気中の酸素と結合して、オキシミオグロビンとなり一般的に鮮度が良いものとして好まれる色合いになります。しかし、時間が経過すると自動酸化が進行してメトミオグロビンとなり、消費者から鮮度の悪いものと判断される色合いになってしまいます。(オキシミオグロビンになることをオキシ化、メトミオグロビンになることをメト化と言います。)
血合筋中の酸素と結合しているオキシミオグロビンが減少し、メトミオグロビンが増加することで褐変がおこってしまいます。
そこで、血合筋に酸素を充填して、酸素分圧を高い状態にすることでオキシミオグロビンの状態を維持するための試験を行いました。
3 酸素充填後冷凍保管した際の褐変抑制効果
これまでの研究で、活け締め直後に酸素充填しても効果がないことが解っていましたので、活け締め2日目、3日目のブリを用いることとし、厚さ4ミリにスライスして、2℃で120分,180分酸素充填加圧処理を施した試験区とスライス後速やかに包装した対照区とに分け、急速凍結後、-40℃に保管しました。28日後、パウチから取り出して流水解凍し、解凍後0,60分経過した時点での血合筋について色彩とミオグロビン中のオキシミオグロビンの割合(以下「オキシ化率」という)とミオグロビン中のメトミオグロビンの割合(以下「メト化率」という)を調べました。
酸素充填区と対照区の色彩とミオグロビン中のオキシ化率とメト化率を比較した結果、a*値は対照区より酸素充填区の方が60分経過後も高い値を示してしました(次図左)。オキシ化率とメト化率は活け締め3日目に酸素充填したものは、対照区と比較してミオグロビンのオキシ化率が高く、メト化率が低い傾向がみられました(次図下)。
以上の結果から、酸素充填処理により、-40℃の冷凍保管で、少なくとも28日間は褐変抑制効果が得られることが確認され、特に活け締め3日目に酸素充填を行うことでより効果的と考えられました。
注:a*値が高いほど色彩が明るい。
4 さいごに
鮮魚の血合筋褐変抑制のために酸素を使用することについて、厚労省の「鮮魚に対する食品添加物について」により、食品の品質、鮮度等に関して、消費者の判断を誤らせるような恐れがあるものは、食品添加物として鮮魚へ使用しないよう指導されています。そのため、酸素充填技術が人体に影響がなく安全であって、一酸化炭素処理とは異なり、生鮮魚肉の品質も外観から判断される品質と一致することを証明できる情報や微生物の増殖や脂質の酸化に関する安全性評価の科学的データを厚労省に提出して許可を得る必要があります。許可されれば、鮮魚への酸素充填による血合筋褐変抑制技術が使用可能となり、県内養殖ブリの冷凍商材への活用が見込めます。
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更新日:2023年10月04日