宮崎県におけるドローンを用いた藻場調査の効率化2

更新日:2023年11月29日

藻場は、水産生物への餌料供給及び生育や繁殖の場になるなど、非常に重要な機能を担っています。しかし、宮崎県で1990年代後半に大規模な磯焼けが確認され、それ以降、藻場の衰退が続いていることから、藻場の維持・回復が求められています。

水産試験場では、これまで、潜水調査を主体に藻場の状況を評価してきましたが、今後も効率的な活動を推進、継続していくために、今回はドローンを活用した効率的な藻場モニタリング方法の開発についてご紹介します。

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宮崎県におけるドローンを用いた藻場調査の効率化2(PDFファイル:837.9KB)

なお、この内容は水産宮崎No.771に掲載されたものです。

宮崎県におけるドローンを用いた藻場調査の効率化2

-増養殖部-

1 はじめに

藻場は、水産生物への餌料供給及び生育や繁殖の場になるなど、非常に重要な機能を担っています。しかし、宮崎県で1990年代後半に大規模な磯焼けが確認され、それ以降、藻場の衰退が続いていることから(図1)、藻場の維持・回復が求められています。水産試験場(以下、「水試」という)では、これまで、潜水調査を主体に藻場の状況を評価してきましたが、今後も効率的な活動を推進、継続していくために、ドローンを活用した効率的な藻場モニタリング方法の開発に取り組んでいます。

     藻場面積の推移

図1 藻場面積の推移

 

2 ドローンとは

ドローンは正式には無人航空機(UAV:Unmanned Aerial Vehicle)と称され、オックスフォード英語辞典第2版では、「遠隔操作で指向され、操縦手の搭乗しない航空機ないし飛行体」と記載されています。ドローンは、大きく3種類に分類することができ、簡易的な空撮ができる玩具用、GPSを搭載し測量や調査にも用いられる汎用、災害時の物資搬送にも用いられる大型の産業用があります(表1)。

ドローンの分類とスペック比較表

このうち、水試は汎用のPhantomシリーズ(Phantom4 PRO Plus)を運用しており(写真1)、機体のスペックは、最大飛行可能時間:約30分、GPS、4K対応カメラ、赤外線による障害物検知システム等があります。

また、水中での調査等が可能な水中ドローン(ROV)が注目されています。水試はCHASING M2を運用しており(写真3)、1~2時間の稼働が可能なバッテリーや4K対応カメラを搭載し、様々な調査や点検の効率化が期待されています。

 ドローン          飛行の様子         水中ドローン

        写真1  ドローン             写真2 飛行の様子            写真3  水中ドローン

 

3 水試で実際に行っている調査

●空撮による藻場面積測定

写真4は、実際に延岡市北浦地区と同安井地区の藻場でドローンを飛行させた際の様子です。この日は快晴で、風もなく、ドローンの飛行には最適な条件と思われましたが、空撮を行うと、海面に光が反射し、角度によっては海藻が見えなくなるという事態が起こりました(写真5)。対策として、光の反射を抑制させるため偏光フィルターが用いて撮影しましたが、それでも十分には撮影できませんでした。このため、海面反射が比較的少ないとされる曇天時や太陽が傾いている朝又は夕方に撮影を行うといった工夫が必要となります。

測定の様子                 反射している海面

                写真4   測定の様子                         写真5 反射している海面

●自動化による空撮の効率化

ドローンによる測定を実施する上での天敵は風です。これまでは天候に留意した上で空撮の計画を組んできましたが、なかなか理想の天候で空撮できるのは希です。特に、強風時においては細心の注意を払って操縦する必要があり、手動での撮影は困難を極めます。

そこで、今年度から新たに自動測定技術の導入を開始しました(写真6)。あらかじめ空撮範囲や撮影枚数、角度及び高度を含めた条件をドローンに記憶させれば、あとは自動で空撮してくれるため、手動で操縦するよりも労力が掛からず、何よりも安全です。今後は藻場面積測定の自動化へ、徐々に移行していく予定です。

        自動測量アプリと連携

         写真6 自動測量アプリとの連携

 

画像処理技術の活用

空撮によって、藻場分布を広く把握するには、写真の画像処理・合成が必要になります。この画像処理によって藻場全体を合成すれば、写真に映り込むテトラポットや岸壁の長さや高さから藻場の面積を推定することが可能であると考えられます。

下に画像処理の例を示します。[解析地点:安井(写真7)、画像処理ソフト:「metashape standard版」]

画像処理用写真

写真7   画像処理のために撮影した藻場

写真7は、延岡市安井地区の藻場を実際に連続的に撮影したものの一部です。画像処理を行う際には、隣接する風景を約60%の範囲で重ねて撮影していく必要があります。この撮影手法と画像処理作業を行うことで合成画像に隙間が空くことを防ぐことができ、より精度の高い合成画像を作成することができます。

このように、約60%重ねて連続的に撮影した写真を用いて画像処理を行った結果が写真8の合成画像です。岸壁付近の藻場を広い範囲で鳥瞰的に把握することが可能となります。 オルソ画像2

写真8  画像処理作業で作成した合成画像

水中ドローンによる藻場撮影

これまでは、潜水士2名以上が海に潜り、海藻の繁茂の把握や種類の特定を行ってきました。しかし、潜水調査は肉体的負担や事故のリスクが伴うため、それに替わる方法として、近年注目を集めている水中ドローンを活用することとなりました(写真9)。今後は、潜水と水中ドローンを両立し、どれだけ能力に差が生じるか検証し、段階的な効率化を目指しています。

ドローン写真

写真9  水中ドローンによる撮影

 

4 おわりに

近年、このようなドローンを用いた藻場調査技術の開発は日本各地で行われています。他県と情報を共有し、開発を進めることで、より効率的な藻場調査が可能になると考えています。水産動物にとって非常に重要な機能を担う藻場を守るために、水試はこれからも効率的な藻場調査技術の開発と藻場保全のための方法について検討を進めていきます。

 

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