宮崎県で発生しているα溶血性レンサ球菌症とその対策

更新日:2024年03月22日

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水産宮崎No776(PDFファイル:464.6KB)

なお、この内容は水産宮崎No.776に掲載されたもの

です。

 

宮崎県で発生しているα溶血性レンサ球菌症とその対策

-増養殖部-

1 はじめに

本県の海面養殖は県北部及び県南部の沿岸域を中心に小割生簀により盛んに営まれており,ブリ,カンパチ,マダイ,シマアジなど様々な魚種が生産されています。海面養殖では様々な感染症が発生しますが,その中で重要な感染症の一つとして細菌感染症が挙げられます。その中でも国内の海産魚で発生するα溶血性レンサ球菌症(以下「αレンサ」という)が現在,県内で最も魚病被害を与えており,公益社団法人日本水産資源保護協会が行った令和3年度水産用医薬品使用状況調査によると被害額は約33百万円となっております。さらに治療薬の抗菌剤使用額は約1億9千万円と養殖業者にとって大きな痛手となっております。

αレンサは, 1974年に初めて確認され,国内養殖の生産に深刻な被害を与えてきましたが,1997年に承認された経口ワクチンおよび2001年に承認された注射ワクチンの普及により被害は減少し,ワクチンが市販化されてから2012年頃までの間は,年間で1件魚病検査するかしないかの珍しい病気となっていました。しかし, 2012年以降,ワクチン接種済の魚でαレンサが全国的に多発し,新たな血清型(2.型)が確認されました。幸いなことにαレンサ2.型に対するワクチンは発生から4年後の2016年に市販化されました。ワクチン普及が進んだ現在でもαレンサ2.型の発生は継続していますが,2.型ワクチンの市販化前と比べると被害は減少傾向にあります。このように,これまで1種類の血清型のワクチンでコントロールできていたαレンサは,新たなタイプの流行により複数の血清型のワクチンを接種しないと感染症の予防が困難となりました。

さらに,2021年9月以降,「3.型」とよばれる新しい血清型のαレンサが発生し,本県ではブリ,カンパチ,シマアジ,ヒラメ及びイサキといった幅広い魚種で確認され,特に本県海面養殖の主力とされるカンパチ及びシマアジにおいて,大きな魚病被害が発生しています。

今回は,県内養殖場で最も被害を与えているαレンサと今起きている問題についてご紹介します。

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写真1: αレンサの原因菌(LG)

グラム染色で青く着色されている

連鎖状の形をしているのが特徴

2 αレンサの対策と起きている問題

まずはαレンサの症状について簡単にご紹介します。前述した部分と重複しますが, αレンサの原因菌(以下「LG」という)LGには1.型,2.型,3.型の3種類の血清型があります。症状は眼球白濁や尾柄部膿瘍形成,心外膜炎を示すことがあります。異常行動も示しキリキリ舞って泳ぐ狂奔遊泳をする個体も散見されます。県内ではブリ,シマアジ,カンパチにおいて被害が大きく酷い時には,日間死亡率が1%を超えることもあります。

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写真2:カンパチαレンサ病魚(尾丙部潰瘍)

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写真3:マアジαレンサ病魚(眼球白濁)

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写真4:カンパチαレンサ病魚(心外膜炎)

現在,αレンサに対しては,ワクチン接種及び抗菌剤使用により対策を行っている状況ですが,ここで予期せぬ事態が起きます。

αレンサに対して特効薬でもあるエリスロマイシンに対して耐性をもつαレンサ(薬剤耐性菌)が本年度初めて確認され,抗菌剤使用に細心の注意を払う必要が生じました。ここからは,αレンサにおいて出現した薬剤耐性菌についてお話します。

3 抗菌剤と薬剤耐性菌

抗菌剤は全ての細菌に万能ではなく,細菌の種類によって効く・効かないものがあります。また,細菌自体が変化し,用法・用量通りに使用しても治療効果が期待できない細菌は「薬剤耐性菌」とされます。感染症の原因細菌が薬剤耐性をもってしまうと,抗菌剤が効かず,感染症が治りにくくなるため,養殖現場において生産効率が低下するという悪い循環に陥ります。

薬剤耐性菌は,抗菌剤に対抗する能力を突然変異により獲得したり,他の細菌からのプラスミドとよばれる遺伝情報交換物質により耐性化機構を獲得するとされます。また,薬剤耐性菌を保菌した種苗により漁場へ侵入する可能性もあることから,種苗のモニタリングを行いながら,長期治療等の対策を進めることで,薬剤耐性菌の増殖を防ぐことが重要となってきます。

4 薬剤耐性菌が引き起こす問題と今後の対策

このように漁場内で流行する細菌の薬剤耐性化が進むと,感染症が抑えられず,さらに流行が拡大するという水産防疫及び養殖経営に直結する大きな問題が生じます。薬剤耐性菌は外部から侵入する可能性も考えられるため,発生をゼロにすることは困難です。そこで,薬剤耐性菌を増やさない取り組みをおこなっていく必要があります。薬剤耐性菌の発生対策として4点が考えられます。

1点目は疾病を発生させないことです。細菌感染症にかからなければ,薬剤耐性菌は基本的に増えることはないので,ワクチン接種及び養殖衛生管理を徹底し魚の健康を維持することが大切です。

2点目は,使用できる抗菌剤を複数準備しておくことです。単一の抗菌剤を同一水域で使い続けることは,薬剤耐性菌の発生リスクを大きく増加させることになります。現在αレンサに対する養殖現場での対応は,エリスロマイシン投薬に偏っており,薬剤耐性菌が発生しやすい状況に陥っているといえます。

3点目は,専門家による早期診断を行うことです。病魚の状況などから自身で疾病を判断して治療を行う場合もありますが,症状や医薬品の効果に少しでも変化を感じたら,水産試験場や獣医師などの専門家に速やかに相談し原因を特定することが大切です。また,薬剤感受性試験を定期的に実施し,複数の抗菌剤に対する効き目を確認して必要に応じて別の抗菌剤に切り替えて使用するサイクリング療法を実施しましょう。

4点目は抗菌剤の適正かつ慎重な利用です。自身の判断で用量を少なくしたり自身の判断で投薬を中止するのは,原因菌の再増加を助長するだけではなく薬剤耐性菌を増加させるので控えましょう。

5 最後に

抗菌剤の使用量が増加したことによりαレンサを筆頭に薬剤耐性菌の発生が増加している傾向にあります。この現状に対処すべく,国が総合的に進めるAMR(薬剤耐性)対策に基づき,本県水産試験場では,必要最小限の投薬で最大限の治療効果を得るための投薬手法の研究を行っており,養殖飼育の効率化と経営改善に向け取り組んでおります。

αレンサを含めたレンサ球菌症は外観による判別が難しく,適切な治療を行うためには薬剤感受性の情報が必要不可欠です。被害軽減の観点から,レンサ球菌症を含め感染症の発生が疑われた場合には,水産試験場増養殖部直通(0985-65-6212)又は地元振興局(東臼杵農林振興局:0982-32-6135,南那珂農林振興局:0987-23-4312)まで御連絡ください。

なお,前年度から海面養殖業者に向けて県のメーリングシステムを活用し,養殖現場から分離された細菌の薬剤感受性等の情報発信を行っています。養殖経営の安定化の一助になれば幸いです。

 

 

 

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