2023年近海かつお一本釣漁業のビンナガ漁場分析 【経営流通部】
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なお,この内容は2024年5月1日発行水産宮崎No.778 (jf-net.ne.jp)に掲載されたものです。
はじめに
本県所属船による近海かつお一本釣漁業の水揚げ量は29年連続日本一を記録しており、本県の漁業生産や地域の食文化等を支える重要な漁業です。操業は2月頃の薩南海域より開始し11月の三陸沖海域まで、広大な海域で魚群を追って移動しながら漁獲を続けます。この中でも、主に5~7月頃に行うビンナガを対象とした操業は、近年では年間の好不漁に大きく影響する非常に重要な位置を占めています。2023年漁期はこのビンナガ漁が比較的好調であったこともあり、全体を通しても非常に良好な結果となりました。
一方で、2023年漁期のビンナガ漁場の形成状況は非常に特徴的であったことから、これを分析してビンナガの漁場形成要因を考察したので報告します。
2023年漁期のカツオ・ビンナガ漁況
2023年漁期のカツオ及びビンナガの漁獲量はともに前年を大きく上回り(図1・図2)、CPUE(1隻・日あたりの水揚量)についても、カツオ・ビンナガ共に昨年、一昨年を大きく上回り、全体を通して好調な結果となりました。過去からの推移を見ると、カツオでは漁獲量・CPUEともに概ね一定の水準であることに対し、ビンナガでは漁獲量・CPUEともに大きな増減を繰り返しており、不安定な漁獲状況であることがわかります。
2023年漁期のビンナガ漁場形成状況
2023年5~6月の近海かつお1本釣漁業の操業では、三陸~房総半島沖にビンナガの漁場が形成されました(図3)。2023年と同様にビンナガが豊漁であった2020年では漁場が5月で経度約12°、6月で経度約8°と比較的広い範囲に位置するのに比べ、2023年では5月で経度約2°、6月で経度約3°と極めて狭い範囲内に集中していました。これは、2023年はビンナガがこの期間、西から東へほとんど移動せず、狭い範囲内にとどまり集中した漁場を形成していたことを示しています。
水深100mの水温構造と漁場位置の推移
ビンナガの好適な水温は18℃前後であることが知られていますが、2023年の漁場位置において、この水温帯が生じたのは水深100m付近でした。このことから、この時期ビンナガは水深100m付近を主たる生息水深としていたことが予測されます。そこで、水深100mの水温構造とビンナガ漁場位置を経日比較したところ、5月中旬から下旬の漁期前半においては、ビンナガ漁場は巾着状に形成した18℃前後の水温域の内側に偏在しており、東側の冷水域の存在により東への移動が制限され、結果的に漁場が狭い範囲に集中したと考えられます。この巾着状の水域は6月以降徐々に開口部分が広がったため、東への移動の制約が無くなり、実際に漁場の位置も南、東へと移動していきました。また、それぞれの状況において、漁場位置は温度傾斜が大きい縁辺部分に集中して生じていることがわかりました(図4)。
おわりに
以上のことから、水深100m(水温18℃前後の水深帯)の水温構造を指標として、ビンナガの行動や漁場の形成状況を予測できる可能性が示唆されました。現在みやざき丸で取り組んでいる環境DNAによる調査では、ビンナガの初期来遊を察知する試みを進めており、本知見との組み合わせにより、みやざき丸による航海調査等において、より具体的な調査手法の検討や予測が可能になると考えております。今後、これら情報はカツオ・ビンナガの漁場探索支援に活用し、ひいては本県水産業の発展に貢献していきたいと考えております。
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更新日:2024年06月04日