宮崎県の赤潮対策【増養殖部】

更新日:2024年09月30日

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水産宮崎No781_2024_08(PDFファイル:441KB)

なお,この内容は http://www.mzgyoren.jf-net.ne.jp/magazine/202408/index.html に掲載されたものです。

はじめに

  本県の海面養殖では、ブリ類養殖やマダイ養殖が県北部、県南部で盛んに行われています。さらに近年では国の養殖成長産業化総合戦略やみどりの食料システム戦略に基づき、人工種苗の導入促進、大規模養殖システムの開発、輸出促進などの各種施策が進められ、養殖業のさらなる発展が期待されます。

  この海面養殖において、被害を生み出す原因の一つが赤潮です。本県でも過去10年に2回、1,400万~2,000万円の被害が発生しています。また、本年度は令和6年7月23日現在、本県での赤潮発生は確認されていませんが、近隣県では有害赤潮が発生しているため注意が必要です。

  本稿では、本県で発生する赤潮及び本県の赤潮監視体制について説明した上で、昨年度より導入したオートアナライザーについてご紹介いたします。

 

本県で発生する赤潮

  赤潮とは、海水中の植物プランクトンが水温や栄養塩量、日照時間などの様々な要因で爆発的に増殖し、海面が着色して見える現象のことをいいます。着色の色は原因となるプランクトンによって様々あり、最もメジャーな色は赤色ですが茶褐色や緑色、白色になることもあります。幸いなことに、本県は近隣県と比べ赤潮の発生件数は少ないですが、ひとたび起これば甚大な被害をもたらしかねない現象です。

  宮崎県では平成16年度から令和5年度までに37件の赤潮が発生しており、そのうち、Heterosigma akashiwo(以下、「ヘテロシグマ」という)、Karenia mikimotoi(以下、「カレニア」という)による赤潮は22件でした。この2種類については、ほぼ毎年出現が確認されていることや、本県において過去に漁業被害が確認されていることから「有害赤潮」として監視対象にしています。

  ヘテロシグマ、カレニアは魚類のエラの上皮細胞などを破壊する成分を含み、強い魚毒性を示すために日本で広く魚類のへい死を引き起こす種として知られています。

  この「有害赤潮」に含まれない赤潮でも、大量発生することでエラに詰まって窒息を起こすものや、死亡したプランクトンが微生物などにより分解される課程で大量の酸素を消費し、辺り一帯の水中の酸素濃度が低下して「貧酸素水塊」を引き起こすものもあります。

  このように組織の破壊やエラ詰まりによる生理学的ダメージ、貧酸素水塊を発生させる環境科学的ダメージの2つの要因が赤潮による魚介類へい死の原因であるとされています。(図1)

 

図1.赤潮による被害の発生過程

 

 図1  赤潮による被害の発生過程

 

本県の赤潮監視体制

  赤潮の発生は水中の栄養塩量や光量、流量などの環境に関わる「他立的要因」に加えプランクトンが集積する「自立的要因」の2つが原因となっており、発生予測の方法は未だ確立されていません。そのため、発生時の早期発見と応急対策を行うことが重要になってきます。

  そこで、本県では定期的な赤潮モニタリング調査を行っています。

  赤潮モニタリング調査では調査定点を設定し、水温、塩分濃度、溶存酸素量(DO)、pH値、クロロフィルa濃度、化学的酸素要求量(総括)COD)、溶存態無機窒素(DIN)、溶存態無機リン(DIP)を測定しています。また、これらに加え海水中のプランクトンを顕微鏡で検鏡し、有害赤潮プランクトンが観察された場合は各漁協へのファックス、漁業者へのメーリングリストを用いたメール発信をしてきました。また、新たに宮崎県漁業技術支援アプリを活用することで、迅速な情報共発信に努めています。

  加えて、今年度からは魚病巡回業務と赤潮モニタリング調査を共同に実施することで効率化を進めるとともに、周年調査できる体制を整備しました。今年、鹿児島県では一般には発生がほとんど見られないとされる冬期に大規模な赤潮が発生しました。今後は秋期、冬期にも注意が必要かもしれません。

 

赤潮が発生したら

  前述の通り、本県では定期的な赤潮のモニタリング調査を行っていますが、確定的な予測を行うことはできません。そこで、県では水産政策課を統括とした赤潮緊急連絡体制を構築しており、常に赤潮の発生に備えています。

  さらに赤潮が発生し、漁業被害が発生する恐れがある場合は赤潮警戒体制への移行、被害が発生し今後拡大すると予測される場合は赤潮緊急対策本部を設置することで、可能な限り速やかに情報共有及び応急処置策の検討、現場への指示が可能となるような体制づくりに努めています。

  なお、赤潮発生時の応急対策として、主に餌止めといけすの移動があります。

  餌止めは養殖魚への餌やりを中止することを指し、海域中の栄養塩濃度を下げることで植物プランクトンの増殖を抑えることを目的としています。いけすの移動は、赤潮の影響により魚毒性のあるプランクトンが増殖したり、貧酸素水塊が発生している海域から移動させることで養殖魚がへい死することを防ぎます。

  いかに早い段階で赤潮の発生を知り、発達段階で応急処置を行えるかどうかが赤潮被害を抑える上での肝になっています。

  海の着色や魚類の異常行動などが見られた場合は、速やかに水産政策課や水産試験場へご相談ください。

 

オートアナライザー

  最後に、昨年度に導入したオートアナライザーについてご紹介します。オートアナライザー(図2)とは連続流れ分析装置ともいい、水サンプルをセットするだけで必要な水質項目を自動で測定してくれる装置です。

  これまで、水質分析は手動で行ってきたことから多大な時間と労力が必要とされてきましたが、この装置を活用すれば分析の自動化に加え、分析精度の向上も期待できます。

  また、従来と比べ測定に必要な劇毒物薬等の量も減ることから、作業安全性の向上や環境に配慮した水質分析につながります。

  今年度は本装置の運用手法を確率し、赤潮発生時に迅速に対応できるよう努めます。

 

図2.オートアナライザーの写真

 

図2  オートアナライザー

 

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