県内養殖場におけるα溶血性レンサ球菌症について【増養殖部】
はじめに
本県の海面養殖は県北部及び県南部の沿岸域を中心に小割生簀により盛んに営まれており,ブリ,カンパチ,マダイ,シマアジなど様々な魚種が生産されています。海面養殖では様々な感染症が発生しますが,その中で重要な感染症の一つとして細菌感染症が挙げられます。その中でも国内の海産魚で発生するα溶血性レンサ球菌症(以下「αレンサ」という)が現在,県内で最も魚病被害を与えており,公益社団法人日本水産資源保護協会が行った令和3年度水産用医薬品使用状況調査によると被害額は約33百万円となっております。さらに治療薬の抗菌剤使用額は約1億9千万円であり,養殖業者にとって大きな痛手となっております。
まずはαレンサの症状について簡単にご紹介します。αレンサの原因菌(以下「LG」という)にはI型,II型,III型の3種類の血清型があります。症状は眼球白濁や尾柄部膿瘍形成,心外膜炎、鰓蓋発赤を示すことがあります。異常行動も示し,キリキリ舞って泳ぐ狂奔遊泳をする個体も散見されます。県内ではブリ,シマアジ,カンパチにおいて被害が大きく酷い時には,日間死亡率が1%を超えることもあります。
現在,αレンサに対しては,ワクチン接種及び抗菌剤使用により対策を行っている状況ですが,ここで予期せぬ事態が起きます。αレンサに対して特効薬でもあるエリスロマイシンに対して耐性をもつαレンサ(以下「薬剤耐性菌」という)が前年度初めて確認され,抗菌剤使用に細心の注意を払う必要が生じました。
薬剤耐性菌の分離状況
抗菌剤は全ての細菌に万能ではなく,細菌の種類によって効く・効かないものがあります。また,細菌自体が変化し,用法・用量通りに使用しても治療効果が期待できない細菌は「薬剤耐性菌」とされます。感染症の原因細菌が薬剤耐性をもってしまうと,抗菌剤が効かず,感染症が治りにくくなるため,養殖現場において生産効率が低下するという悪い循環に陥ります。
現在,薬剤耐性が確認されているのはLGII型のみであり,ワクチンが未だ作成されていないIII型については,まだ薬剤耐性菌を確認できておりません。本県における令和5年度及び6年度の薬剤耐性菌の分離件数は以下のとおりです。
本県では,令和5年度からブリ及びカンパチの2魚種から分離されています。令和6年度ではブリから多く分離されており,年度別の割合としては9割を占めます。また,令和6年度の統計はまだ9月時点ですので,今後も件数が増加することが予想されます。
今後の対策
漁場内で流行する細菌の薬剤耐性化が進むと,感染症が抑えられず,さらに流行が拡大するという水産防疫及び養殖経営に直結する大きな問題が生じます。薬剤耐性菌は外部から侵入する可能性も考えられるため,発生をゼロにすることは困難です。そこで,薬剤耐性菌を増やさない取組を行っていく必要があります。薬剤耐性菌の発生を押さえるためには無闇な投薬は控え,抗菌剤の使用を可能な限り減らしていく必要があります。この現状に対処すべく,国が総合的に進めるAMR(薬剤耐性)対策に基づき,本県水産試験場では,必要最小限の投薬で最大限の治療効果を得るための投薬手法の研究を行っており,養殖飼育の効率化と経営改善に向け取り組んでいます。本試験の結果,絶食時において魚体内の薬剤血中濃度を高く維持できたことから,投薬前の絶食処理の有効性がデータにより証明されました。これについては,次回の水産宮崎でご紹介できればと思います。
最後に
αレンサを含めたレンサ球菌症は外観による判別が難しく,適切な治療を行うためには薬剤感受性の情報が必要不可欠です。被害軽減の観点から,レンサ球菌症を含め感染症の発生が疑われた場合には,水産試験場増養殖部直通(0985-65-6212),又は最寄りの振興局(東臼杵農林振興局:0982-32-6135,南那珂農林振興局:0987-23-4312)まで御連絡ください。
なお,前年度から海面養殖業者に向けて県のメーリングシステムを活用し,養殖現場から分離された細菌の薬剤感受性等の情報発信を行っています。養殖経営の安定化の一助になれば幸いです。
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更新日:2024年10月30日