ICT を活用した浮魚礁利用漁業のスマート化に向けた取組【資源部】

更新日:2025年07月04日

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No791_2025_06(PDFファイル:810.2KB)

なお,この内容は 水産宮崎No.791 に掲載されたものです。

はじめに

  本県では、ICT を活用したスマート水産業の一環で、浮魚礁における気象海況情報を漁業者に提供しています。浮魚礁を利用する漁業者にとって、当該情報は無駄な操業を減らすための操業判断の参考となっており、燃油費の削 減や労務時間の低減に寄与しているところです。しかし、漁獲対象となるカツオ・マグロ類が浮魚礁に蝟集してい るかは現場に行くまで分かりません。そこで水産試験場では、令和 5 年度から浮魚礁に魚群探知機を設置し、魚群蝟集状況をリアルタイムに漁業者に提供するための試験を実施しています。今回は、令和 6 年度に実施した試験に おける魚探の設置方法や魚群の行動についてご紹介します。

浮魚礁への魚群探知機の設置

  本県沖合に設置している表層型浮魚礁「うみさち 5 号」に魚群探知機を改造し、設置しました。具体的な方法としては、魚探本体から取り外した送受波器をステンレス製のパイプに取り付け、浮魚礁浮体部の防舷材の一部を取り外したうえで浮体部外周に固定し、魚探本体とバッテリー(12 V 100 Ah)3 台を浮魚礁内部の機器室内に設置しました。あわせて、魚探の送受波器の横にタイムラプスカメラを設置し、浮体部近傍における魚群蝟集状況の確認 を行いました。

  調査時期は 2 期に分け、1 期目調査は 2024 年 7 月 19 日~8 月 14 日に、2 期目調査は 2024 年 12 月 1 日~12 月 20 日に実施し、既設潮流計の観測時間(毎時 48 分~60 分)と重複しないように毎時 0 分から 30 分間観測しました。 なお、令和 5 年度は浮魚礁の潮下側、令和 6 年度は潮上側の観測を行いました。

No791_Fig1

 図 1 魚探機材設置状況

魚群分布の時系列変化

  うみさち近傍の魚群には日周行動が確認され、1 期目調査は日中の表層付近に魚群が多く蝟集していたことに加え て、日中の方が 60 m 以深の水深帯での魚検出頻度が高い傾向にありました。2 期目調査は 1 期目調査と逆の傾向を示し、日中よりも夜間の表層付近に魚群が蝟集していた事に加えて、時間を問わず 100 mまでの深い水深帯まで広範囲に魚群が分布していました。

  魚探をうみさちの潮下側に設置した令和 5 年度調査結果と、潮上側に設置した令和 6 年度結果を比較すると、1 期目及び 2 期目調査ともに表層付近で魚群分布密度が大きく、深くなるにつれて減少する傾向は一致していました。 また、1 期目調査よりも、2 期目調査の方が深い水深帯まで魚が検出されることが多い傾向も同様となっていました。

  日周行動については、1 期目調査時は日中時間帯に分布密度が大きく、2 期目調査時は夜間時間帯の分布密度が大 きい傾向も同様となっていました。薄明時に分布密度が大きかったり、深くまで魚が検出されたりしていることからも、この時間帯は活発に魚が活動していることが示唆されました。

  以上のことから、浮魚礁の潮下側と潮上側において、魚群分布の日周行動に明瞭な差は見られませんでした。カツオやキハダのような高度回遊性魚種については、うみさち近傍を周回するように遊泳していると思われるため、 魚探の設置位置が潮下側、または潮上側のどちらであるかは、あまり重要ではないと考えられます。

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 図 2 平均魚群分布密度の日周変化

タイムラプスカメラによる魚群の確認

  1 期目及び 2 期目調査において、うみさち 5 号でタイムラプスカメラによって確認できた魚種は、撮影画像の角度や距離で判別が困難であった不明種を除くと、カツオ・キハダ・ツムブリ・シイラ・ハチビキ・スギ・サメ・イス ズミ属・ツバメウオ属・オヤビッチャ・ウスバハギ・イシダイ・イシガキダイ・ギンガメアジ・カンパチ・ハシナ ガイルカ・コトヒキ・アジ科・ハタ科・アミモンガラ・ナンヨウカイワリの計 21 種でした。なお、夜間は光量が少 なかったため、タイムラプスカメラの撮影画像からは状況の確認はできませんでした。

  タイムラプスカメラに映っていた魚類について、カツオ・マグロとそれ以外の魚種に分けて、画像枚数を日別に 処理したところ、1 期目調査は計 891 枚にカツオ及びキハダが映っていた一方で、2 期目調査は計 5 枚のみであり、 1 期目と比較してカツオ・キハダの撮影枚数が著しく減少しました(図 3)。2 期目調査の現地調査時には、うみさ ち付近で数隻のかつお一本釣り漁船や曳縄漁船が操業していたため、うみさちから少し離れた範囲(100 から 200 m 程度)にはカツオの群れやキハダがいた可能性は高いと考えられます。

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  図 3 タイムラプスカメラに魚が映った画像枚数       図 4 タイムラプスカメラの画像

今後について

  これまでの調査で、浮魚礁への魚探設置方法を確立し、魚群の日周行動等をある程度把握することができました。 今後は、浮魚礁に魚群が蝟集する条件の解明に加えて、魚群の蝟集状況を漁業者へリアルタイムに提供するための 技術開発を進めることによって、浮魚礁の効率的な漁労活動の更なる支援を目指します。

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