未利用資源の有効活用に関する研究とフード・オープンラボの紹介【経営流通部】

更新日:2025年09月03日

はじめに

  水産加工残渣や混獲魚等の未利用資源は、現状、費用をかけて廃棄されている場合があります。水産試験場経営流通部では、限りある資源の有効活用や、廃棄費用削減のために、これらの未利用資源を活用する技術開発を行っています。また、フード・オープンラボという施設を保有しており、県内の加工業者や漁業関係者(漁協、漁業者、漁協女性部、県漁連)等を対象に、製品開発研究や新技術習得のための技術指導を行い加工技術等の向上を図るとともに、試験販売用の商品製造のために施設を有料で利用してもらい、新たな水産加工品開発と販路拡大を支援しています。今回は未利用資源の活用に関する技術と、フード・オープンラボを紹介します。

未利用資源の有効活用

  今回取り扱ったギンカガミは、梅雨時期に漁獲されますが、魚体が極端に扁平で捌きにくい形状をしています。また、一度に大量に漁獲されることから鮮魚としての価値も低いのが現状です。肥料の原料になる場合もありますが、集荷に費用がかかり、収入とはならずにうまく利用されていません。しかし、ギンカガミはおいしい魚で、アジに似た身質をしており、小骨も少なく食べやすい魚です。そこで、ギンカガミの有効活用に向けて、捌く工程を抑えた頭や内臓の簡易的な処理方法を検討しました。また、骨ごと喫食でき、長期保存を可能とする加工品を検討するため、加圧加熱処理時間を検討しました。

1.簡易的な処理方法の検討

  処理方法を検討するため、骨格構造を確認したところ、腰帯と臀鰭第1条の近担鰭骨という骨が発達しており、これらが腹腔を囲むような構造が確認できました(図1)。包丁で処理する際にこれらの骨を切断するには強く力をかける必要があるため、それらを避けて処理する方法を検討したところ、図2の模式図のように、体長の1/2の位置の腹部から約10度の方向に体表の暗色班が出現する背骨直前まで切断後、頭部から鰓蓋上端に向け背骨直前まで切断し、2点を結ぶように切断し、最後に脊椎骨を折るように頭部と体部をひねることで、頭部、内臓及び腰帯と臀鰭第1条の近鰭担鰭骨を除去することができました。この時の歩留まりは約45%であり、一般的なキンメダイの2枚おろしとおおよそ同等の数値が得られました。なお、ギンカガミは鱗がなく鋭利な棘は成魚になると退化するといった処理しやすい特徴もありました。

 

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図1  ギンカガミの骨格構造と発達した骨

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図2  捌き方の模式図と捌いた後のギンカガミ

 

    2.常温加工品の開発

   次に加圧加熱処理について検討しました。加圧加熱処理とはいわゆるレトルト食品にする処理のことで、真空包装をした食品を高温高圧で殺菌することで長期保存が可能になります。また、同処理を施すことで、魚の骨に含まれるコラーゲンがゼラチン化し、骨が軟化します。今回は、当場で保有するレトルト殺菌装置を使用し、1)の手法で捌いたギンカガミを使用し、121℃30分、121℃40分、121℃50分、121℃60分の条件で加圧加熱処理を行った後、物体の固さを測定できるレオメーターという計器を使用し、頭部側の10番目から18番目までの背骨に直径3 mmの円柱プランジャーを押し込み、骨が破砕したときの最大荷重(g)を測定することで、骨の硬さを求めました。

  脊椎骨は加圧加熱時間の延長に伴い軟化し、121℃40分から50分にかけて最大荷重は大きく低下し、121℃60分の条件で最小となりました。しかし、レトルト処理は長時間行うと、食品の変成や変色を引き起こすと共に「レトルト臭」と呼ばれる独特な不快臭を発すことから、必要な殺菌条件を満たしたうえで、短い時間で処理するのが好ましいとされています。人の喫食できる骨の最大荷重は1,000g以下とされており、これ以下に中心値が分布している範囲内で最も処理時間が短い121℃50分の条件が、最も適した加圧加熱時間と推察されました(図3)。

  ギンカガミの有効活用については、今後本研究の処理方法を普及する必要があると考えます。

 

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図3  脊椎骨の最大荷重

 

フード・オープンラボ

  次に、水産試験場が保有するフード・オープンラボについてご紹介します。当施設には、ご利用いただける主な機器として、真空巻締機(缶詰)、前述のギンカガミの研究で登場した高温高圧蒸気滅菌器(レトルト殺菌機)、急速冷凍機、スモークハウス、冷却らいかい機、スチームコンべクションオーブンなどがあります。フード・オープンラボは、新たな水産加工品開発に取り組む県内の方がご利用になれますが、テスト販売品の製造に当たっては、1.水産製品製造業、2.そうざい製造業、3.密封包装食品製造業のいずれかの「臨時営業許可」の取得と「食品衛生管理者」の設置が必要で、利用される施設・機器毎に1時間あたり20円~955円の利用料が必要となります。

 

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水産物加工指導センター

 

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水産物加工指導センターの機器類(左から真空巻締機、高温高圧蒸気滅菌器、急速冷凍機)

 

  これまで、複数の加工業者の方々がテスト販売用商品を製造する際に、フード・オープンラボをご利用いただいています。フード・オープンラボでは、本格的な製造販売や設備導入の検討にあたり、試作品をテスト販売し、市場でのユーザーの声を聞くというプロセスを少ない経費で実施できますので、新商品の開発や新たな販路開拓をお考えの皆様のお役に立つものと思います。

  新商品の試作段階では、水産試験場の研究員による技術指導の下、無料で施設等をご利用いただけます。水産業に従事される皆様で、新商品開発や、加工等の技術的な問題点や疑問等がありましたら、ご遠慮なくご相談いただきますようよろしくお願いいたします。また、利用方法や料金など、フード・オープンラボのご不明な点や、詳しい情報につきましても、お気軽に水産試験場経営流通部までお問い合わせください。

 

 

電子ファイルは以下からダウンロードできます。
水産宮崎No792_2025_07(PDFファイル:3.3MB)
なお,この内容は水産宮崎No.792に掲載されたものです。

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