アマダイ類における親魚養成技術等の開発【増養殖部】

更新日:2025年09月03日

1 はじめに

    アマダイはスズキ目アマダイ科アマダイ属に分類される魚です。漢字では「甘鯛」と書かれ「鯛(タイ)」という文字が使われていることから、一般的に知られる「マダイ」の仲間と思われがちですが、マダイはスズキ目タイ科に属しますので異なるグループになります。アマダイ属にはシロアマダイ、キアマダイ、アカアマダイなどがおり、市場に流通するアマダイの多くがアカアマダイ(図1)です。アマダイの身は白身で脂肪が少なく、肉質がしっとりと柔らかい特徴があります。刺身や味噌漬けといった和食を中心に様々な料理に使われており、特に関西では「グジ」と呼ばれ珍重される高級魚として知られています。

  近年、アマダイ類の漁獲量は全国的に減少傾向にありますが、宮崎県においては1989年の246トンをピークに減少したものの、2016年度から開始された宮崎県アマダイ類資源回復計画に基づく取組もあり、2012年以降、増加に転じています(図2)。本計画に基づく取組の1つとして、人工種苗の放流が挙げられます。このため、県では、放流に必要な稚魚を生産するための技術を確立することを目的に、2014年度から一般財団法人宮崎県水産振興協会と連携し、種苗生産技術開発に取り組んでいます。

    一方で、アカアマダイの種苗生産は産卵期である10月頃に実施していますが、台風や海況等の影響により漁に出られないことがあり、親魚確保及び良質な受精卵の安定確保が課題となっています。このような中、本県では2019年度より受精卵量産化試験に取り組み、人工生産魚からの採卵・ふ化など、一定の成果を得たところです。しかし、良質な受精卵の更なる獲得のためには、効率的な親魚の成熟や良質な精子の確保が必要です。そこで、本稿では2023年度から実施している親魚養成と凍結精子の作製についてご紹介します。

 

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図1 アカアマダイ

 

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図2 宮崎県のアマダイ類の漁獲量の推移

 

2 親魚の成熟技術に関する研究

No793_写真1

アカアマダイ人工親魚の養成には、生態について知り、生育環境を整える必要があります。

    1つ目は成熟の条件に合わせた水温調整です。2歳魚以降に成熟を開始し、産卵水温は18~23℃とされています。このことから、2024年度から、水温が高くなる夏季においては、23℃で水温制御を行い飼育する試験を開始し、常に成熟が可能な水温帯での飼育を行いました。

    2つ目は、習性への対応です。アカアマダイは、本県では水深100 m前後の砂地の海底で巣穴を作って潜り、周囲の同類に対しての縄張り意識が強いとされています。通常の水槽で複数養成した場合、水槽内で噛み合い、強い個体しか生き残れなくなってしまいます。この対策として、2 kL丸型シート水槽内に水中ポンプ等で強い水流を作り、噛み合う余裕を無くそうと考えました。その結果、流れに向かって整列して泳ぐようになり、噛み合いの頻度が大幅に減少しました。また、飼育光を海中で吸収されやすい赤色に変更したことで、魚の狂奔が減少し、さらに養成が容易になりました。

    3つ目は、成熟するための栄養管理です。これまでは、親魚養成時に比較的栄養価の高いトラフグ用の配合飼料を給餌していました。しかし、その配合飼料では親魚が成熟せず、アカアマダイの成熟に必要な栄養を十分に摂れていなかった可能性が示されたことから、オリジナルでアジ、イカ、オキアミ、栄養剤をブレンドして作製した栄養満点な飼料(モイストペレット飼料)の給餌を始めました。

    これらの生育環境の整備が功を奏して、2023年は人工親魚3尾から合計145 g(卵量約19万粒)、2024年は人工親魚2尾から合計72 g(卵量約9万粒)の採卵に成功しました。

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図3 採卵された成熟卵                                          図4 整備した飼育設備

3 凍結精子作製に関する研究

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  水産業界では近年、人間と同様、凍結精子による遺伝子保存技術が積極的に導入されていることをご存じでしょうか。凍結精子技術を活用すれば、成熟期に高活性の精子を採取し凍結保存することで、いつでも使用することができます。つまり、本県のように台風や海況等の影響により漁に出られない時期でも、養成親魚から採卵できれば、受精が可能であり、これまでよりも安定的に種苗生産ができることになります。

    上記の実現に向けて、2022年から凍結精子作製に挑戦してきましたが、様々な試行錯誤の結果、2023年には18 mL(卵量換算で約30万粒)、2024年には57 mL(卵量換算で約92万粒)分の活性の高い凍結精子の作製に成功しました。

    2024年に作製した57 mLのうち、21 mLを、種苗生産を行う宮崎県水産振興協会へ提供しました。

   

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図5 解凍後の精子                                                              図6 液体窒素保存容器に保存される凍結精子

 

4 さいごに

    今回は人工親魚の成熟について紹介しましたが、人工親魚は飼育期間が長く(2年以上)、コストや飼育リスクが高くなることや、遺伝的多様性に課題があるため、今後は天然の親魚を産卵期前に採捕し、それを数ヶ月間の短期養成によって成熟させるための試験にも取り組んでいます。

    このような技術開発をとおして、アマダイ類の資源回復に貢献できるように、今後も努力していきたいと思います。

 

 

電子ファイルは以下からダウンロードできます。

アマダイ類における親魚養成技術等の開発(PDFファイル:748.4KB)

なお、この内容は 水産宮崎 No.793に掲載されたものです。

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