新たなα溶血性レンサ球菌症とワクチン開発【増養殖部】
はじめに
本県の海面養殖は県北部及び県南部の沿岸域を中心に小割生簀により盛んに営まれており、ブリ、カンパチ、マダイ、シマアジなど様々な魚種が生産されています。海面養殖では様々な感染症が発生しますが、その中で重要な感染症の一つとして細菌感染症が挙げられます。その中でも国内の海産魚で発生するα溶血性レンサ球菌症(以下「αレンサ」という)は現在、県内で大きな魚病被害を与えており、公益社団法人日本水産資源保護協会が行った令和5年度水産用医薬品使用状況調査によると被害額は約24百万円となっております。さらに治療薬の抗菌剤使用額は約1億6千万円と養殖業者にとって大きな痛手となっております。
αレンサは、1974年に初めて確認され、国内養殖の生産に深刻な被害を与えてきましたが、1997年に承認された経口ワクチンおよび2001年に承認された注射ワクチンの普及により被害は減少し、ワクチンが市販化されてから2012年頃までの間は、年間で1件魚病検査するかしないかの珍しい病気となっていました。しかし、2012年以降、ワクチン接種済の魚でαレンサが全国的に多発し、新たな血清型(II型)が確認されました。幸いなことにαレンサII型に対するワクチンは発生から4年後の2016年に市販化されました。ワクチン普及が進んだ現在でもαレンサII型の発生は継続していますが、II型ワクチンの市販化前と比べると被害は減少傾向にあります。このように、これまで1種類の血清型のワクチンでコントロールできていたαレンサは、新たなタイプの流行により複数の血清型のワクチンを接種しないと感染症の予防が困難となりました。さらに、2021年9月以降、「III型」とよばれる新しい血清型のαレンサが発生し、本県ではブリ、カンパチ、シマアジ、ヒラメ及びイサキといった幅広い魚種で確認され、特に本県海面養殖の主力とされるカンパチ及びシマアジにおいて、大きな魚病被害が発生しています。今回はこの「III型」にフォーカスして御紹介します。
写真1 αレンサの原因菌(LG)
グラム染色で青く着色されている。連鎖状の形をしているのが特徴(宮崎大学より提供)。
2 αレンサの対策と起きている問題
まずはαレンサの症状について簡単にご紹介します。前述した部分と重複しますが、αレンサの原因菌(以下「LG」という)にはI型、II型、III型の3種類の血清型があります。症状は血清型で酷似しており、眼球白濁や尾柄部膿瘍形成、心外膜炎を呈することがあります。また、異常行動も示しキリキリ舞って泳ぐ狂奔遊泳をする個体も散見されます。県内ではブリ、シマアジ、カンパチにおいて被害が大きく酷い時には、日間死亡率が1%を超えることもあります。III型は従来型(I・II型)と異なり、従来のワクチンが効かず、発症を確認して抗菌剤を投薬するしか対策の術がありませんでした。
写真2 シマアジαレンサ病魚
(尾丙部潰瘍)
写真3 カンパチαレンサ病魚
(眼球白濁)
写真4 カンパチαレンサ病魚
(心外膜炎)
3 水産試験場の取り組み
水産試験場ではこの現状を打破するべく、メーカーと共同でワクチン治験を行いました。治験の結果、全ての血清型で累積死亡率の低下が見られ、αレンサI・II・III型の混合ワクチンで有効性を確認することができました(図1)。
そして、2025年5月12日より、世界で初めて、III型に対応したワクチンの市販を開始しました(写真5)。今後は、本ワクチン接種により、養殖主力魚種の歩留まり向上と水産用抗菌剤の大幅な削減が期待されます。
図1 カンパチにおけるワクチン治験結果
写真5 本年度市販開始したワクチン
(共立製薬より提供)
4 最後に
αレンサを含めたレンサ球菌症は外観による判別が難しく、適切な治療を行うためには薬剤感受性の情報が必要不可欠です。被害軽減の観点から、レンサ球菌症を含め感染症の発生が疑われた場合には、水産試験場増養殖部(直通0985-65-6212)又は最寄りの振興局(東臼杵農林振興局:0982-32-6135、南那珂農林振興局:0987-23-4312)まで御連絡ください。
海面養殖業者に向けて県のメーリングシステムを活用し、養殖現場から分離された細菌の薬剤感受性等の魚病関連の情報発信も積極的に行っています。養殖経営の安定化の一助になれば幸いです。
この記事に関するお問い合わせ先
水産試験場
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更新日:2025年11月06日