沿岸漁業への新規就業に求められる経済条件の解明について
沿岸漁業への新規就業に求められる経済条件について、国立研究開発法人水産研究・教育機構水産技術研究所と共同研究を行っていますので、昨年に引き続きその一部をご紹介します。
電子ファイルは以下からダウンロードできます。
沿岸漁業への新規就業に求められる経済条件の解明について(PDFファイル:409.6KB)
なお、この内容は水産宮崎No.754に掲載されたものです。
沿岸漁業への新規就業に求められる経済条件の解明
-経営流通部-
はじめに
本県沿岸漁業への新規就業者が採算のとれる経営を実現するために求められる経営・経済条件を投資分析により明らかにすることで、新規就業者の定着につなげるための経営計画作成の基礎資料とすることを目的に、国立研究開発法人水産研究・教育機構水産技術研究所と令和元年度から令和3年度まで共同研究を行いました。一昨年、昨年に引き続き、今回は令和3年度の分析内容の一部をご紹介します。
分析方法と設定条件
今回の分析では、漁業への新規就業において、投資に見合う利益を上げるための経済条件を明らかにするためにNPV(Net Present Value)法を用いています。NPV法は経営分野で最もスタンダードな手法であり、投資によって購入した設備や機器類等の耐用年数内に得られるであろう収入が支出より大きければ、投資は有利であると判断する方法です。
分析対象とした地域及び漁業種類は日向市漁協の刺網漁業の単一操業であり、2019年の漁業者の経営収支データ及び販売データ、漁業関連事業のデータ、漁業者への聞き取り調査によって、1日あたりの水揚金額や労働時間、最低限必要となる投資額等を算出しています。
表1 日向市漁協刺網漁業の経営概要の設定
表2 日向市漁協刺網漁業の1日のスケジュールと労働時間
表3 日向市漁協刺網漁業の投資財の設定
NPV法による分析結果
日向市漁協における刺網漁業の単一操業で新規就業した場合において、各投資額の水準に対して採算のとれる操業日数を表4に示しています。
表3の投資財の設定において、最低限必要となる投資額は649.0万円であり、その場合の投資が有利となる年間の操業日数は96日であることが明らかになりました。関係漁業者の方への聞き取りによると、年間の操業可能日数は最大200日程度とのことから、96日の操業日数は新規就業者が十分に操業できる日数であり、採算がとれ、投資に有利であると言えます。また、投資額を70%増加させた1,103.2万円の場合でも、操業日数が144日で投資は有利であると評価されており、余裕を持った投資が可能と言えます。
次に、主要な漁獲魚種であるタチウオ価格の水準に対して、投資に引き合う操業日数を表5に示しています。
漁獲されたタチウオの平均価格1,641.0円/kgに対して、7%と大きく減少した場合、タチウオ価格は1,526.1円/kgとなり、投資に引き合う操業日数は98日となります。また、7%と大きく増加した場合、タチウオ価格は1,755.8円/kgとなり、投資に引き合う操業日数は93日となります。タチウオ価格に大きな変動があったとしても、投資に引き合う操業日数にさほど変化はなく、刺網漁業での新規就業は、価格変動に大きく左右されず、労働負担の比較的少ない操業が可能と考えられます。
表4 刺網漁業の単一操業の分析結果:投資額と操業日数の関係
表5 刺網漁業の単一操業の分析結果:タチウオ価格と操業日数の関係
おわりに
今回ご紹介した分析は、新規就業希望者の漁業を営む地域及び漁業種類の選択や初期費用の算出、就業時に目標とする操業日数の決定、就業後に目標と実績を比較し各自改善点を見つける際などに活用できると考えており、新規就業者の定着の一助となることを期待しています。
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更新日:2022年06月17日