アマダイ類における親魚の養成技術等の開発

更新日:2022年09月12日

本県では、2019年度よりアマダイ類の受精卵量産化試験に取り組み、人工生産魚からの採卵・ふ化など、一定の成果を得たところです。しかし、良質な受精卵の更なる獲得のためには親となる人工生産魚の成熟や稚魚期の生残率向上を図る必要があります。そこで、本稿では2022年度から実施している親魚養成試験についてご紹介します。

電子ファイルは以下からダウンロードできます。

アマダイ類における親魚の養成技術等の開発(PDFファイル:830.3KB)

なお、この内容は水産宮崎No.757に掲載されたものです。

アマダイ類における親魚の養成技術等の開発

-増養殖部-

1 はじめに

アマダイはスズキ目アマダイ科アマダイ属に分類される魚です。漢字では「甘鯛」と書かれ「鯛(タイ)」という文字が使われていることから、一般的に知られる「マダイ」の仲間と思われがちですが、マダイはスズキ目タイ科に属しますので異なるグループになります。アマダイ属にはシロアマダイ、キアマダイ、アカアマダイ等がおり、市場に流通するアマダイの多くがアカアマダイ(図1)です。アマダイの身は白身で脂肪が少なく、肉質がしっとりと柔らかい特徴があります。刺身や味噌漬けといった和食を中心に様々な料理に使われており、特に関西では「グジ」と呼ばれ珍重される高級魚として知られています。

     アカアマダイ

図1 アカアマダイ

近年、アマダイ類の漁獲量は全国的に減少傾向にありますが、宮崎県においては1989年の246トンをピークに減少したものの、2012年以降、増加に転じています(図2)。アマダイ類の資源を回復させる手段の1つとして、人工稚魚の放流が挙げられます。このため県では、放流に必要な稚魚を生産するための技術を確立することを目的に、2014年度から一般財団法人宮崎県水産振興協会と連携し、種苗生産技術開発に取り組んでいます。一方で、アカアマダイの種苗生産は産卵期である10月頃に実施していますが、台風や海況等の影響により漁に出られないことがあり、親魚確保及び良質な受精卵の安全確保が課題となっています。

このような中、本県では2019年度より受精卵量産化試験に取り組み、人工生産魚からの採卵・ふ化など、一定の成果を得たところです。しかし、良質な受精卵の更なる獲得のためには、親となる人工生産魚の成熟や稚魚期の生残率向上を図る必要があります。そこで、本稿では2022年度から実施している親魚養成試験についてご紹介します。

宮崎県のアマダイ類の漁獲量の推移

図2 宮崎県のアマダイ類の漁獲量の推移

(2005年以前は農林水産統計、2006年以降は販売データによる)

 

2 稚魚期の生残率向上に関する研究

アカアマダイは稚魚期のかみ合い等が激しく、生残率が低いことから生残率の向上が課題となっています。一方で、マダイやカワハギでは、稚魚飼育時に水流を発生させ遊泳方向を一方向にそろえさせることで、かみ合いが減少し、死亡率が低下するとされています。また、青色光は魚を落ち着かせる効果があるとの情報を得たことから、水流と青色LED照明を用いた生残率向上に関する飼育試験を行いました。飼育水槽は1㎘角型FRP水槽を使用し、水流処理と青色LED照明処理を行わなかった区(以下「対照区」という。)、水流処理のみ行った区(以下「水流区」という。)、青色LED照明処理のみ行った区(以下「ライト区」という。)、水流処理と青色LED照明処理の両方行った区(以下「水流+ライト区」という。)を試験区とし(図3)、2021年7月8日から2022年2月8日まで比較飼育試験を実施しました。試験終了時の各生残率は、対照区が10.5%、水流区が61.0%、ライト区が34.1%、水流+ライト区が62.5%となり、水流+ライト区が最も生残率が高い結果になりました。なお、対照区は飼育試験期間中にビブリオ病が発生したこともあり、他の試験区と比べ生残率が低い結果になりました。

 

         水流区 ライト区

図3 2021年度実施した比較飼育試験(左:水流区、左:ライト区)

2022年度は飼育水槽を大型化することに加え、水槽形状の違いによる比較飼育試験を行っています。試験区は、2㎘角型FRP水槽に水流処理を行う区(以下「角型区」という。)、2㎘丸型シート水槽に水流処理を行う区(以下「丸型1区」という。)、2㎘丸型シート水槽に水流処理と青色LED処理の両方行う区(以下「丸型2区」という。)を設定し(図4)、2022年6月から飼育試験を行っているところであり、稚魚期の生残率向上のために最も効果的な飼育手法の探索を行いたいと考えています。

 

   角型区 丸型1区 丸型2区

図4 2022年度実施している比較飼育試験(左:角型区、中央:丸型1区、右:丸型2区)

 

3 人工親魚の養成技術に関する研究

アカアマダイ人工親魚は、2歳魚以降に成熟を開始するとされています。このことから、本県では昨年度11月に、本施設内で飼育していた人工親魚の3歳魚から採卵を試みましたが、卵を得ることができず3歳魚でも成熟していないことがわかりました。本施設内の人工親魚3歳魚が十分に成熟していなかった要因として、2つ考えられます。

1つ目は飼育水温です。文献を調べたところ、アカアマダイの産卵水温は18~23℃とされていました。そこで、水産試験場の年間飼育水温を調べたところ、アカアマダイが産卵するのに適した水温になるのは例年5~6月及び10~11月頃ですが、昨年11月に採卵を試みた時の水温は23℃であり、産卵水温としては高めの方であったため、もう少し魚の成熟を待ってから採卵を行った方が良かった可能性があります。

2つ目は餌の種類です。2021年度まで本県では、親魚養成時の餌としてキンギョの餌のような配合飼料を給餌していました。しかし、配合飼料では、アカアマダイの成熟に必要な栄養を十分に摂れていなかった可能性があります。

これらの要因を解消するため、本県では、2022年度からアカアマダイの産卵水温である23℃に調整した海水で親魚を飼育し、個体毎にPITタグを施し個体識別を可能にすることで、個体毎の成熟や成長を把握できるようにしました。更に、配合飼料の代わりにモイストペレット飼料と呼ばれるアジやエビ等の生餌が含まれている栄養満点な飼料を給餌することにしました。この成熟試験は、10月後半まで継続飼育し、個体・月毎の成熟状況の確認を行う予定です。今後、人工親魚がどのように成熟していくのか楽しみです。

 

人工親魚のタグ挿入風景

図5 人工親魚のタグ挿入風景

 

4 さいごに

本県では、今回ご紹介した研究以外にも、安定的な受精卵確保のための凍結精子技術導入や、親魚養成時のコストや労力削減のための天然親魚養成技術開発に取り組む予定です。また、アカアマダイと近縁種であるシロアマダイは比較的成長が早く高値で取引されており、次期種苗生産対象魚種として期待されているため、アカアマダイで確立された技術をシロアマダイに応用できればと考えています。

このような技術開発をとおして、アマダイ類の資源回復に貢献できるように、今後も努力していきたいと思います。

 

この記事に関するお問い合わせ先

水産試験場
〒889-2162
宮崎県宮崎市青島6-16-3
電話番号:0985-65-1511
ファックス番号:0985-65-1163
メールフォームによるお問い合わせ